2022/02/17

Improvisation and Imagination

 先日、クラシック vs ジャズ連弾を行った時の木米真理恵さんのMCを振り返る。

「長いこと演奏家指向のみでやってきた。子供の時は作曲コースにいたが即興演奏が大嫌いだった。なぜ即興演奏が嫌いか?それはいざ弾いたときに頭の中で想定していたイマジネーションと違う音が発せられるときが辛いからだ。」

なるほどなるほど、ごもっともだ、と思いました。とても共感しました。しかし同時に、想定していた音を自由自在に発することができれば世話ない(笑)、なかなか出来ないから僕らは訓練しているのだ、とも思いました(苦笑)

ところが、この問題に気づいてすらいなかったり目を背けていたりする人を多く見かけるので敢えて取り上げてみたいと思います。ジャズ、即興演奏、自由、イマジネーション、、、新しい音楽は奇跡で生まれるものではありません。即興演奏というものは音楽技法的には通常の作曲を確実に下回ります。例えば、通常の作曲で構成可能な旋律やハーモニーの知識のうち、即興演奏では母国語と同じくらい無心で身についている知識だけを引き出すことが可能です。フリーカンバセーションやスピーチと同じ。限りなく自由ではありますが、自分に身についているボキャブラリを用いて表現をすることになります。

この性質だけ取り上げると、推敲して仕上げられた作品に対して、即興演奏はとても幼稚なものだ、ということになってしまいます。それでも人々は即興演奏への可能性を捨てない。なぜか?面白いから?カッコいいから?

自分の考えとしては、自分の外側に目を向けたときに多くの可能性を秘めているからだと思っています。頭の中で想定したものを弾く、頭の中で想定したものを弾く、、、これを繰り返す即興演奏は自分の内側にしか目を向けていないことになります。ですが実際は他に多くのフィードバックがあるはず。頭の中で想定していた音が出ようが出まいが、いま自分が発した音を聴いて何を思う?その日の楽器と会場の音響を感じて何を思う?共演者が発した音を聴いて何を思う?聞こえた音とリードシートに記されたものを見比べて何を思う?今その瞬間、感じたものに影響されてよいのです。そして、その次の瞬間の演奏内容を決断するのは、たった今外界から影響を受けた自分なのです。それこそが"自由"。この連鎖が紡ぎだす芸術にはある種の奇跡を期待してもバチはあたらないと思います。

無限の旋律やハーモニーの創作に期待をしている人は、即興演奏をやめて家で作曲の勉強をしたほうがよいと思います。


2022/02/14

Waltz for Debby

Trio2019 / Shin-ichiro Mochizuki, Miroslav Vitous, Shinya Fukumori はもう聴いていただけたでしょうか。このアルバムにはBill Evansの"Waltz for Debby"をアレンジした演奏が収録されています。(5拍子のアレンジになっているのでもはやWaltzではなくなってしまいましたね。。)

ところで、オリジナリティの強いアルバム中にこのようなカバー曲を収録するのはどうなのか?という意見はスタッフの間でもありましたし、聴いてくださったリスナーのかたもそう思ったかたはいらっしゃったことでしょう。

でも実はこれ、どうしてもわたし自身の収録したい気持ちが強くて押し切りました。

2000年代くらいから、よくあるピアノとベースの関係性が変わったように思います。おそらく、コンテンポラリースタイルのジャズが増えて、そもそも楽曲が複雑になってきたのです。昔の白人系ピアノトリオは、シンプルなジャズスタンダードをモチーフにしながらも即興演奏の内容が複雑で、とくにピアノとベースの音域の交差のしかたが複雑だと思いました。ベースが攻撃的にハイポジションに攻めあがってきてはピアノの音域を侵食します。それを醍醐味としていたリスナーも多いのではないでしょうか?スコット・ラファロとビル・エバンスの関係性、キース・ジャレットとゲイリー・ピーコックの関係性、チック・コリアとミロスラフ・ヴィトウスの関係性、エンリコ・ピエラヌンチとマーク・ジョンソンの関係性、そういうのが垣間見えるジャズの演奏って最近は減ったと思いませんか?

私は攻撃的にジャズスタンダードを演奏するMiroslavに再会したかったのです。そしてそのようになりました。私は彼とレコーディングしたとき、自分が聴いて育ってきた音楽に再会しました。十代のころから頭の中でシミュレーションしていたピアノとベースの関係性が現実世界で再現するのを実感しました。

この録音はファンサービスであり、"ファン"とはジャズファンである私自身も含みます。

Trio 2019(Columbia / Unknown Silence)
Shin-ichiro Mochizuki: piano
Miroslav Vitous: contrabass
Shinya Fukumori: drums