2022/10/09

bebop

 [朝の私]

「ビバップの演奏って、興味ない人からしたらなにひとつ面白くないよね」

演奏会場に向かう電車のなか、以前に知人が話していた言葉をふと思い出して、思い出し笑いのような、思い出し悲しみのような、思い出し怒りのような、、、そんな考え事をしていたら電車の乗り換えを間違えてしまった。。

(遅刻しました。。。西嶋さんごめんなさい)


上記の言葉は真剣な会話だったのかもしれない。ジャズの人口が減っていることを深刻に思ってそう言ったのかもしれない。ジャズは難しい音楽だから、なんとかして間口を広げることを考えなくちゃ、とそう思って言ったのかもしれない。だがしかし、僕の中の個人的な線引きとしては、ビバップが面白いと思ったことがないのであれば、それはジャズに興味が無いことにほぼ等しい。そこを媚びてまでジャズの間口をなんとか広げなくては、と考えをめぐらさなければいけないのだとしたら、もはやジャズなんて滅んでしまえばいい。

僕は子供の時に、何もないところからバップフレーズが産み落とされて、ウォーキングベースが不思議なドライブ感を作り出して、それらがまるで魔法のように見えた。そういうの共感したことある人だけが楽しければ、もうそれでいいんじゃないかな?


ちなみに自分の発表してきた作品はビバップからはかけ離れているし、自分自身は常日頃ずっとビバップを研究しているタイプではない。そんな私にとってもビバップはある種神聖な領域にあり、軽々しく、なんか工夫してわかりやすくしようよ、とは言い難い存在だ。もっと近代的なジャズをやっている人々、よりスタイリッシュなジャズをやっている人々、そういったプレイヤーたちの音楽を聴いたときも、この人はビバップのトレーニングを通過したあとに今ここにいるのか?というのは音を聴けばすぐにわかることだ。一見、ビバップと関係ない音楽をやっているように見えても、核の部分に切り離せない何かがある。


チャーリーパーカーが登場してからジャズは難しくなりすぎて大衆音楽ではなくなった、そんなことは半世紀前から言われていることで、いまさら2022年に私たちがドヤ顔で語り合う問題意識ではない。


[夜の私]

この日、演奏会場の一体感はあまりにすばらしかった。演奏者もリスナーもみんないっしょに呼吸しているかのような感覚に浸った。そして帰る電車のなかで、行きの電車のなかの考え事を思い返しても、それが信じられないくらいゴミのようにちっぽけな存在になってしまっていた。酔いしれて変化した自分の人格に恐怖した。



2022/04/08

Contrabanda / Jyoji Sawada

掲載するには少し遅いタイミングですが、以前に沢田穣治さんのリーダーアルバムのレコーディングに参加させていただいており、今年になってCDとサブスクがリリースされました。私のトリオとはまた違ったタイプの演奏スタイルですが、とても理想的な即興演奏が繰り広げられるすばらしい作品だと思います。各種サブスクのリンクをまとめておきたいという意図もあって、以下のように掲載させていただきます。

"Contrabanda"(Columbia  / Unknown Silence )

Jyoji Sawada (Contrabass)
Shin-ichiro Mochizuki (Piano)
Takayoshi Baba (Guitar)
Kazumi Ikenaga (Drums)
Yuka Kido (Flute)
https://www.unknown-silence.com/uksl-0010

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2022/02/17

Improvisation and Imagination

 先日、クラシック vs ジャズ連弾を行った時の木米真理恵さんのMCを振り返る。

「長いこと演奏家指向のみでやってきた。子供の時は作曲コースにいたが即興演奏が大嫌いだった。なぜ即興演奏が嫌いか?それはいざ弾いたときに頭の中で想定していたイマジネーションと違う音が発せられるときが辛いからだ。」

なるほどなるほど、ごもっともだ、と思いました。とても共感しました。しかし同時に、想定していた音を自由自在に発することができれば世話ない(笑)、なかなか出来ないから僕らは訓練しているのだ、とも思いました(苦笑)

ところが、この問題に気づいてすらいなかったり目を背けていたりする人を多く見かけるので敢えて取り上げてみたいと思います。ジャズ、即興演奏、自由、イマジネーション、、、新しい音楽は奇跡で生まれるものではありません。即興演奏というものは音楽技法的には通常の作曲を確実に下回ります。例えば、通常の作曲で構成可能な旋律やハーモニーの知識のうち、即興演奏では母国語と同じくらい無心で身についている知識だけを引き出すことが可能です。フリーカンバセーションやスピーチと同じ。限りなく自由ではありますが、自分に身についているボキャブラリを用いて表現をすることになります。

この性質だけ取り上げると、推敲して仕上げられた作品に対して、即興演奏はとても幼稚なものだ、ということになってしまいます。それでも人々は即興演奏への可能性を捨てない。なぜか?面白いから?カッコいいから?

自分の考えとしては、自分の外側に目を向けたときに多くの可能性を秘めているからだと思っています。頭の中で想定したものを弾く、頭の中で想定したものを弾く、、、これを繰り返す即興演奏は自分の内側にしか目を向けていないことになります。ですが実際は他に多くのフィードバックがあるはず。頭の中で想定していた音が出ようが出まいが、いま自分が発した音を聴いて何を思う?その日の楽器と会場の音響を感じて何を思う?共演者が発した音を聴いて何を思う?聞こえた音とリードシートに記されたものを見比べて何を思う?今その瞬間、感じたものに影響されてよいのです。そして、その次の瞬間の演奏内容を決断するのは、たった今外界から影響を受けた自分なのです。それこそが"自由"。この連鎖が紡ぎだす芸術にはある種の奇跡を期待してもバチはあたらないと思います。

無限の旋律やハーモニーの創作に期待をしている人は、即興演奏をやめて家で作曲の勉強をしたほうがよいと思います。


2022/02/14

Waltz for Debby

Trio2019 / Shin-ichiro Mochizuki, Miroslav Vitous, Shinya Fukumori はもう聴いていただけたでしょうか。このアルバムにはBill Evansの"Waltz for Debby"をアレンジした演奏が収録されています。(5拍子のアレンジになっているのでもはやWaltzではなくなってしまいましたね。。)

ところで、オリジナリティの強いアルバム中にこのようなカバー曲を収録するのはどうなのか?という意見はスタッフの間でもありましたし、聴いてくださったリスナーのかたもそう思ったかたはいらっしゃったことでしょう。

でも実はこれ、どうしてもわたし自身の収録したい気持ちが強くて押し切りました。

2000年代くらいから、よくあるピアノとベースの関係性が変わったように思います。おそらく、コンテンポラリースタイルのジャズが増えて、そもそも楽曲が複雑になってきたのです。昔の白人系ピアノトリオは、シンプルなジャズスタンダードをモチーフにしながらも即興演奏の内容が複雑で、とくにピアノとベースの音域の交差のしかたが複雑だと思いました。ベースが攻撃的にハイポジションに攻めあがってきてはピアノの音域を侵食します。それを醍醐味としていたリスナーも多いのではないでしょうか?スコット・ラファロとビル・エバンスの関係性、キース・ジャレットとゲイリー・ピーコックの関係性、チック・コリアとミロスラフ・ヴィトウスの関係性、エンリコ・ピエラヌンチとマーク・ジョンソンの関係性、そういうのが垣間見えるジャズの演奏って最近は減ったと思いませんか?

私は攻撃的にジャズスタンダードを演奏するMiroslavに再会したかったのです。そしてそのようになりました。私は彼とレコーディングしたとき、自分が聴いて育ってきた音楽に再会しました。十代のころから頭の中でシミュレーションしていたピアノとベースの関係性が現実世界で再現するのを実感しました。

この録音はファンサービスであり、"ファン"とはジャズファンである私自身も含みます。

Trio 2019(Columbia / Unknown Silence)
Shin-ichiro Mochizuki: piano
Miroslav Vitous: contrabass
Shinya Fukumori: drums



2022/01/23

Jazz Life February, 2022

 音楽雑誌ジャズライフの2022年2月号(1月発売)に、"Trio2019 / Shin-ichiro Mochizuki, Miroslav Vitous, Shinya Fukumori"のCDレビューが掲載されました。少しリリースとタイミングがずれてしまいましたが、演奏者から見てもとても光栄なコメントを掲載していただくことが出来ました。ぜひご覧ください。また、編集者の早田和音さんのベストアルバム2021にも掲載してくださっています。全身全霊をかけて作った作品をそのように評価していただけてとてもうれしく思います。

ただ、「雑誌が2022年2月号で、記事がベストアルバム2021、アルバム名がTrio2019」というこのややこしさに関してはどうしようもないです。どうもすみません(笑)

Trio 2019(Columbia / Unknown Silence)
Shin-ichiro Mochizuki: piano
Miroslav Vitous: contrabass
Shinya Fukumori: drums